教育新世紀




読売教育賞から2

横浜の身近な自然と社会を教材化

生活科・総合学習部門
鷲山 龍太郎・横浜市教育センター専任研究員
「大都会横浜の自然と社会を探究し、表現する活動を通して、学ぶ力を培い、一人一人を伸ばす総合学習の展開――学級文化の創造・発展としての総合学習」

 新学習指導要領の目玉となる「総合的な学習の時間」が、小中学校では二〇〇二年度から本格的に始まる。教科の枠を超えた新しいタイプの授業に、現場からは戸惑いの声も上がっているが、意欲的な実践も先行的に始まっている。

 鷲山龍太郎さん(44)は一九九八年度から二年間、前任校の横浜市立稲荷台小学校の三、四年生に、郷土の成り立ちを教材にした総合学習を試みた。

 授業は当初、プールで発見したヒメゲンゴロウの飼育を発展させた自然系の学習と、学校がある西区の大立体地図を作る社会系の学習とに区分けしていた。二つの学習が統合したのは、三年の二学期。「西区の埋め立てをさぐる」をテーマに、江戸時代まで内海だった郷土が、どのような自然や人間の営みを経て現在の姿になったのかを探った。

 文献や資料で歴史を追うだけでなく、砂場にホースで水を流して神奈川県の巨大立体模型を作るなど、体験重視の科学的アプローチも試みた。学習の成果は、ビデオの映像作品にして発表することにした。

 「頑張ったことが先生や親に認められる経験の積み重ねが、探求を深めるエネルギーになる」と鷲山さんは、その狙いを話す。

 シナリオ作りから演技、撮影、衣装・大道具作りまで、クラス全員が役割を分担。コンピューターグラフィックスを見事に使いこなし、同市教委主催の「市小学校ビデオコンテスト」で優秀賞を受賞した。

 二年間の学習で、児童は仮説を立てて調べる力を養い、親たちよりも郷土のことを知っていることに自負心を持つようになった。

 総合学習では教材選びが授業の成否を左右すると言われる。高台にある同小に赴任し、街の眺めに感動した鷲山さんは、「魅力ある教材は必ず地域にある。教師が関心を示せば、児童は必ずついてくる」と話す。その上で、「児童と共に学ぶ姿勢で児童の活動を支援していけば、児童の主体的学びが始まり、必然的に教科・単元の枠を超越した総合学習へと発展する」と自らの実践を振り返った。

(文化部 保井 隆之)
 
選考委員評
 市川博・横浜国立大学教授
「教科の学習も子どものこだわり・主体性を尊重していけば総合的学習となる。自分たちの地域の自然・社会的事象―理科・社会の領域―へのこだわり・追求を中心にして、教科の枠を柔軟にして総合的に展開した優れた実践である」

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